こんな能力(ちから)なんていらなかった


 だが焦ったのが悪かったのか、優羽の腕を鬱陶しく思った男は優羽から千秋を素早く取り上げると離れた所に放り投げた。


「あっ!!」


 地面に当たった衝撃で刃と鞘がぶつかりガチャンと音がする。

 それが千秋の悲痛な叫びに聞こえ、優羽は顔を歪ませた。

 それを武器が取り上げられたことに対する感情だと思った男はいい加減諦めてください、と勝ち誇った笑みを浮かべた。


 そして男は舐めていた腹から顔を上げるとゆっくりと上の方に頭をスライドさせ、ブラに歯をかける。



 優羽は顔を歪ませる。



こんな男なんかに——



 絶対に嫌だ、と思ったその時、フッと身体の上から重さが消えた。


 優羽は何が起きたのか分からないままゆっくりと上体を起こす。

 そして前を見た時、優羽は固まった。


「大丈夫か——?」


 手を差し出す男の声は、確かに紫音で、その顔も確かに紫音で。

 だけど、髪の色は真っ黒。あの蜂蜜色の甘い髪の毛なんかでは無い。


そしてその背中には



大きく立派な




黒い翼がついていた————



< 259 / 368 >

この作品をシェア

pagetop