こんな能力(ちから)なんていらなかった
紫音の視線の先には優羽の通う高校があった。
高台にある華桜院の屋上からはこの周辺が一望できる。
それを知っているから紫音はここに来る。
「放課後があるだろ」
「放課後まであと何時間あると思ってんだ……」
何時間も何もHRで通知表を受け取れば放課後だ。
「……たった一時間だけど?」
「一時間“も”なんだよ、俺にとっては」
紫音はそれを最後に言葉を発さなくなった。
代わりにチャイムが流れる。
今から授業に向かったところでどうせ遅刻だ。
それに最初は冬季休暇の注意事項についての説明だ。そんなものはもう何回も聞いてきてる。
唯斗は黙ってフェンスにもたれるようにして座った。晃はその背後で静かに立っている。
晃も座れば?と言おうとした時だった。
「——っ!」
先に反応したのは紫音。続いて晃。
そして遅れて唯斗も立ち上がる。
紫音が食い入るように見つめる優羽の学校に薄い幕——結界が張られていく。
驚くほど錬成が速い。
紫音が羽根を出した瞬間には優羽の学校は薄いドームに覆われてしまっていた。