こんな能力(ちから)なんていらなかった



「それが、三ヶ月前に同じ場所で優羽に会って、世界がまた動き出した——」


 紫音は優羽の髪を掬い上げる。
 


 なんて幸せそうな顔で笑うんだろう。



「あの時、俺がお前を見つけなかったら、今こうして隣に優羽はいなかったかもしれないんだよな……」


 紫音は優羽の髪で遊びながらしみじみと呟く。

 まるで、今優羽の横にいれて嬉しいって言っているような。
 そんな風に聞こえる科白(セリフ)。


 優羽は紫音から目を逸らし俯いた。


——ズルいよ……。


 口から出るのは紫音を非難する言葉。

 紫音は王様(好きな人)がいるってのに、優羽に期待ばかり持たせる科白を吐く。

 無意識なんだろうか。
 もしそうだったら余計にズルい。

 優羽は泣きそうになるのを、口を引き結んでこらえる。


もういっそのこと。

私が王様だって嘘ついちゃおうか。


 そんな醜い考えが頭をよぎる。


でも、そんな嘘通用するわけないよね————


…………。


通用するわけないんだから、やってみちゃう?


 悪魔の囁きを聞き入れた。
 それが、いけなかった。



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