こんな能力(ちから)なんていらなかった
「今日どうしてデートに誘ってくれたの?」
紫音は目を瞬かせると。
「……どうしてって言われてもな」
困ったような顔で笑った。
「一緒にいたかったから、じゃダメか?」
「そんな風に聞く時点でダメ」
「……厳しいな」
紫音は優雅に数歩歩くと、こっちおいでと手招きする。
それに従ってついていく。
紫音はデッキのへりに近付くと柵にもたれた。
「何か話そうとしてたんじゃないの?」
紫音は少しだけ悲しそうな顔で、「……やっぱ、気がついた?」と囁くように聞いた。
今日一日一緒にいればなんとなく分かる。なんとも言えないけれど、違和感みたいなものをずっと感じていた。
「……なぁ、知ってるか?」
優羽はゆっくりと空を見上げた紫音に釣られて、自分も見上げる。
空はどこまでも黒く、満点の星が輝きを放つ。
しかし、その中に月はない。
「高校最寄り駅前のスクランブル交差点」
「そりゃ、知ってるけど?」
「あそこで俺とお前が再会したって気付いてた?」
「……い、や?」
少し身構えていたのに、そんなことを言われて拍子抜けする。
「……あそこで別れたのが優羽に会った最後だった」
一瞬考えて、それが3年前の話なのだと気づく。
「探しても探しても優羽は見つからなくて、どうでもよくなって、ただ生きてた」
大袈裟のような気がするけれど、紫音の表情は真剣そのもので茶化す気にはなれなかった。