こんな能力(ちから)なんていらなかった




きっと貴方は私を忘れる。

だけど、私は忘れない、忘れられない。


——誰だよ、女の恋愛は上書き式なんて言ったのは。


 八つ当たりは違う方向にシフトする。


上書きなんて、勿体無くてできるわけないじゃんか————



 その時視界に入ったものに気を取られて横に目が行った。


 ——美しい金髪(ブロンド)。
 それが夕闇の中で美しく舞う。


 優羽はそれを持つ人物を一人しか知らない。
 紫音も優羽に釣られて横を向き、カッと目を見開く。


「何でお前が……」


ここに。


 そう告げようとしたんだと思う。
 紫音の口はそう動いていた。

 だけれども優羽の耳に届いたのは。



「死んで」



 可愛らしくもおぞましい、そんな声だった。

 仁緒の手が自分の肩に伸び、トンと押される。
 柵を掴む間も無く、船の外へとゆっくりと倒れこんでいく自分の体。



「優羽!!!」


 紫音が手を伸ばす。

 だが、優羽の目は、耳は、全て仁緒を捉えていた。


 その声、その腕を伸ばして佇む悪魔のような笑顔。


私は知っている。

何度も何度もうなされた。


 あの悪夢と瓜二つのこの光景。




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