代償
「文香!?」
帰って来た!
息が上がっている。
走ってきたのかな。
リビングのソファーの上で驚く。
「お前………何した」
………何でもない。
けど、怖いの。
それだけだから。
「………まぁ、いい。コーヒー、淹れてくれ」
黒いベストのボタンを外す。
………執事みたいなベストだね。
それ。

「文香、来い」
ソファーに座って、上時は言う。
コーヒーのカップを持って、上時のもとに行く。
上時はコーヒーを受け取って、

近くのテーブルに置いた。
………何で?
飲まないの?
上時?
「座れよ」
上時は、すぐ隣を軽く叩く。
………そこに座れと?
「遅い!」
………え?


「………ぁ」
ソファーに押し倒される。
………何で!?
「ぅぇ………ぉ………」
「………バカ」
「………ぁ!」
覆い被さる上時。
かかる重さのぶん、暖かい。
………でも、こんなの、

………みたい。
「………ぅぇ………ぉぃ?」
母音しか言えない。
まともに、名前も呼べない。
だけど、これが、精一杯。
子音は………まだ。
「………知ってるよ。怖かったんだろ?」
………聞いたの?
ユートさんに?
凜音さん?
「………何で、怖がる」
………私、………どうして。

耳元を擽る上時の吐息。
………上時、私、
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