桜雨〜散りゆく想い〜
 「時間?」


 妙な言い回しをする香に僕は聞き返した。桜はもうすぐ散ってしまうだろうが、時間がないなんて言い回しは不自然に感じる。


 「桜が散って行くのは綺麗だけど、凄く悲しいの……何だか体が花びらみたいにヒラヒラ散って行くような気がして――」


 僕は単なる比喩だと思った。僕で無くてもきっと同じ事を思うだろう。だが、香の言葉は比喩でも何でも無かった。


 「悲しいけど、桜はまた来年も咲くよ。ピンク色の花びらをその体に隙間なくびっしりね」


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