掌編小説集

455.合鍵を押し付けた貴方は、今は私の。

出会いは最悪だったね。


私の親友を疑ってさ。


まっ、解決して、犯人も逮捕されたからよしとしよう。




母が病死した後、品行方正だった父が、酒に溺れネグレクトなって、施設に押し込まれた。




だけど、家に帰りたかったな。




そんな子供の私にはどうにもできない最中、父は事件に巻き込まれて入院してしまった。


貴方達は父を悪く言うけれど、入院中の世話だってするし、散らかった家も片付けるよ。


たとえ、気に入らないからって持っていった着替えを投げつけられても。


私は父が好きだから。





だから、私、貴方が止めてくれなかったら、



あいつを、

父を傷付けた犯人を、



この世から消してしまったかもしれない。




貴方の怒鳴り声と包み込まれた手と、


粉々に砕け散って散乱した破片は、


私達を再び繋げてくれたね。




あれから数年、父との中はすっかり良くなった。


まあ、貴方との関係はまだまだ最悪の真っ只中だったね。




そんな時、事件は起こってしまった。



出かける時、車の鍵を忘れたと取りに戻った父の戻りが遅い。

嫌な予感なんて全く無くて、手間取っているだけだなんて呑気に。



倒れている父に思わず駆け寄って、頭に鈍い感触を受けた時、霞む視界に事の重大さに気付いたんだ。



念の為の入院だって、全然実感がわかなくて。


声が出せなくなっても手話があるし、逆に貴方達の役に立てなくて悔しいなんて笑った。




けど、貴方には分かったのかな?っていうか、私は分かりやすかっただけかな?



差し入れを片手に現れて、泣きたい時は泣けなんて。



音も無く泣いた私を、貴方はぶっきらぼうに。




いつでも連絡してこい。


って、置き手紙なんて。





電話番号知らないのに。



全く、貴方達の尽力で事件も解決したし、教えに行きますか。





だけど、無理をしていたのかな。


暗く冷たい部屋に一人。



震える手で、貴方に電話して、でも、すぐに切った。


仕事で忙しいし、夜中の私の電話なんて、きっと貴方は気にも止めない。



迷惑なんて、思われたくないから。






ぼんやり見える貴方に、夢だと分かっていても、




来てくれた。




と言った気がする。





朝、目覚めた時、気付いたよ。




夢じゃなかった、って。
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