掌編小説集

583.うちの者を可愛がってもらったみたいでと悪たれを統廃合すれば後光は差すのか

あの子の様な被害者を出さない為?
悲劇を二度と生み出してはならない?
命を玩具の様に弄ぶ犯罪者を抹殺する為には仕方がない?
地位の為ならば隠蔽や冤罪も躊躇わず己の保身を優先する上層部を壊滅し再生する為?
あの子の事件をトレースしてあの子と同じような傷を増やしたとしてもそれは正義の為?

乱暴されて父親が誰か分からなくてお腹はどんどん大きくなるのに誰にも言えなくて
跨線橋脇で蹲っているところを連れて来られた先は立錐の地も無い産婦人科
お金はいいからと入院させられて囲炉裏を囲んで仲良くなったのは同じ週数のあの人
産むしか出来なかったあの人に取りかえを提案したのは第三セクターも頼れない私
あの子の為の効率重視は時を進めて早い成長を齎すけれど私は同じ時を刻めず経験値も積むことは出来なくなる
取違えの善意に感謝は出来ても養育を押し付けた謝罪は出来ない

あの子の為にお揃いのミサンガを作る
あの子に辿り着く唯一の手掛かりかあの子に辿り着いてしまう決定的な証拠か
母親にはなれなかったけれどあの子に恥じない生き方をしよう
そう思って心の中にトーテムポールを建てて生きてきた
二度と会うことはないと思っていたから
会わなくてもあの人と幸せに生きているのなら

けれど二度と会えないどころか生きてもいなかった
それは決してあの人のせいではない
被害者とその母親として写真と名前を参考資料として捜査会議で見るまでは知らなかった
テレビや新聞を見る暇もなくあの頃はがむしゃらだったから
遺留品のミサンガで他人の空似は否定された

あの子があの人の実の子供ではないことは事件の時に判明していたけれど
マスコミの餌食になることを恐れて公表はしなかった
補足事項としては初動捜査が遅れたことに批判が殺到することを防ぐ為
捜査を徐々に縮小していって行方不明のまま打ち切られた

確かに憎い
被疑者も上層部も懸命に捜査していたであろう捜査員もあの人でさえも
その当時の何もかも
でもだからといってあの子の事件の再現をする必要性がどこにある?
ミサンガに託した願いを滅茶苦茶したのは他でもないあなただ


あの子を道具にして自己満足でしかない復讐なんて勝手にしないで
< 583 / 590 >

この作品をシェア

pagetop