憂鬱はきみを灰色にする
広げた愛情。
人間の活動範囲など、そう変わるものでもない。

学校帰りのカフェテラスに、俺は今日子とともにいた。

「この漫画面白いよね」

ケラケラと楽しそうに、漫画の話をする今日子を、頬杖をつきながら見ていた俺は、感慨深げに頷いて見せた。

思えば不思議なものである。

前の彼女は、漫画を一切読まなかった。

コミックは買わないが、毎週雑誌を買っている俺が待ち合わせ場所で、漫画を読んでいるだけで少し不満そうであった。

そんな彼女とは正反対で、今日子は俺の数百倍超える漫画好きであり、パソコンとか…引くほどの知識を持っていた。

今までの俺が知らないことを教えてくれるが…女としての魅力を感じるかといったら、疑問だった。

なのに…どうして、一緒にいるのだろうか。

そんなことをぼおっと考えながら、今日子を見ていると、俺の視線に気付き…今日子はニヤリと笑った。

「おやおや〜翔くんは、彼女をそんなに見つめて、何がご所望かしら」

彼女…今日子は、俺に対しての自分をそう呼ぶ。

だけど…俺にとっては、違和感の塊だ。

しかし、周りはそう認識していた。

自分だけが認めていないのに、周りが勝手にそう解釈している。

(まあ〜いいか)

その曖昧な態度が、自分の立場をおかしくしていっていることに、その時の俺は気付かなかった。

細身でスラッとした女がタイプの癖に、今日子は小柄で可愛らしいタイプであった。

近付けない花に手を伸ばすことが目標だったのに…俺は、興味がわかない野花に対峙されていた。

汚くはない。

だけど…俺は、造花を見るように、今日子を見ていた。

(彼女…)

その言葉がなかったなら、いい友達であっただろう。

だけど、この野花は…バラよりも鋭く、危険だった。
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