煙草とキス



あたしは、受け取ったケータイを握りながら快斗を見た。




「……快斗?」




そう呟くと、


快斗はまた目線を落として、口を開いた。






「メイとのこと、聞いただろ?
……俺はあの頃、本気になってた」




静かに話し始めた快斗。



あたしは、快斗の表情を見つめながら軽く唇を噛み締める。






「なんつーか、ガキだったから尚更、メイにはまってったんだよな」




快斗はそう言いながら、さりげなく苦笑する。



あたしも、苦笑した。





「けど今更、メイが俺の前に現れたって俺は何も思わない。つーか、思いたくもない」




「えっ?」





「俺は、お前しか知らねぇから」








快斗が、あたしの目を見つめた。



スタジオのドアに、手をかけた。




開かれたドアの向こうからは



何の音もしなくて。




鈍く閉じたドアの音だけが、あたしの耳に届いた。





< 109 / 280 >

この作品をシェア

pagetop