優しい君に恋をして【完】
学校に着き、教室に入ると、
廊下側一番後ろの席に座った。
席替えをして、私の隣は森下くんになり、
その前は白石くん。
私の前には、真菜が座っている。
「成海、忙しそうだな」
森下くんが、スマホをいじりながら声をかけてきた。
「受験生だからね、しかたないよ」
壁に背をもたれて座っていた真菜がそう言ってため息をついた。
「成海が3年だって、最近知ったよ」
「どこの大学受けるの?」
白石くんが私の方を向いて聞いてきた。
白石くんは、最近他校に彼女ができた。
「デザイン科に進みたいって言ってたけど、
どこの大学かまでは、聞かなかった」
白石くんは、「あぁ」と、何か知っているかのように、
頷いた。
「デザイン科か。
あるんだよな、聴覚障がいを持った生徒と、
視覚障がいを持った生徒だけが通う専門の大学が。
たしか、そこにデザイン科があったような......」
白石くんは、スマホを取り出した。
「ほら、ここだ。
総合デザイン学科があるよ。
ここすごく良いって聞いたことがある。
講義が字幕で出たり、
手話通訳士がいたり。
成海みたいに、耳が不自由な生徒と、
視覚に障がいを持った人のために作られた大学だから、
ろう学校の大学みたいな感じで、
成海には、すごく良い大学なんじゃないかな」
私は、白石くんのスマホを覗き込んだ。
「つくば......?」
私はその大学の名前が気になった。
「ここって......」
白石くんは、スマホの画面を拡大した。
「この大学、茨城県にあるみたいだな」
茨城......
そんな......
東京よりも、さらに遠い......
「そういう大学って、もっと近くにないのかな……」
白石くんに聞くと、
白石くんは、スマホから指を離して、私を見た。
「聴覚障がいを持った生徒のための大学は、日本にひとつだけで、
この大学しかないよ」