暗黒ショートショート
余命
余命


あたしは自宅のキッチンで横たわっている旦那に、もう一度包丁を振り下ろした。
真っ赤に染まる床。


ピクリとも動かない体。


死んでいるのは明白だったがあたしは脈をとり、絶命していることを確認した。


「姑と旦那は殺したから、あとは舅と義理兄さんね」


血まみれになった手で殺す人間の数を指折り数える。


あと2人?


そんなものだったかしら?


あたしの人生、もっと殺意を持って生きていた気がする。


一体誰を殺したかったんだっけ?


そう思い、あたしは真剣に過去を思い出す。


舅と義理兄さんは、あたしがお風呂に入っている時にわざと入ってきて『あぁ、入っていたのか』と言いながらジロジロと体を見てきたから。


姑は、そんなゲスな行為を知っていながら無視し、あたしに舅と同じ布団で寝ることを強要してきたから。


旦那は、仕事仕事と言うばかりであたしの相談には何一つ乗ってくれなかったから。


そんな、人格否定されるような生活を強いられている間に、あたしの体は肺がんに侵され、もう手の付けようがないところまで来ていた。


余命1か月。


1週間前、医者から宣告された言葉。


あたしは一気に地獄へと突き落とされた気分だった。


しかしその時、姑は笑っていたのだ。


元々嫌味なババァだったけれど、人が死ぬというときに金の勘定をして笑うなんて、あまりにも残酷だ。


だから、あたしにとってこの家族を殺すことはなんの躊躇もないことだった。


「あとは、昔あたしの彼氏を寝取ったチエ。浮気したケンジ。それに、いじめを見て見ぬふりをしていた担任の田中。あぁ、残り3週間で全員殺せるかしら」


不安に思いつつ、旦那に突き刺さったままの包丁を引き抜く。


すると、そのタイミングで玄関のドアが開く音が聞こえてきた。


「ただいま」


舅の声だ。


「おかえりなさい」


あたしはいつもの通り、パタパタとスリッパの音を響かせながら玄関へと向かう。


「どうしたんだい、その服は」


舅が、あたしの血まみれになった洋服を見て目を見開く。


あたしはそれに返事をすることなく、包丁を舅へ突き刺した。


「あと、4人」


あたしが死ぬまでに、殺せるかしら。





その頃、病院で重大なミスが発覚していた。


カルテの取り違え。


初歩的なミスだった。


「肺がん患者のカルテを出してしまった女性には、すでに余命宣告までしています」


「仕方ない。誠心誠意謝罪しよう。あなたはただの肺炎でした、もう完治しています。とな」

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