別れの理由

俺はわかっていた。


彼女が、奴に愛されていることを。
彼女は、ただ寂しかっただけだということを。

わかっていたから。

《優しさだけでは幸せにはできないのよ?》

彼女はいつも、そう言って笑っていたから。

《優しさと思いやりは違う》って……。


――だから……、これがお前の言う思いやりや……。




それだけを信じて。

俺は、

ただ、彼女の幸せだけを考えて別れを告げた。
俺には、奴のように、一人の女を何年もの間愛した経験がない。
今の彼女への思いが、いつまで続くかなんて、自分でもわからない。
一時の寂しさを埋めるための愛は忘れられても、
その刺青に込めた、深く、痛く、重い愛は消えない。


「どうして?」

と彼女は訊いた。

「教えて?」

と、何度も何度も繰り返した。

でも、そんなことは彼女が一番わかっているはずだ。

だから、

俺は何も答えなかった。

お前を愛してるから――

それが、別れる理由だなんて、言えるわけがない。

「教えて?」

ほら…
また、そんな哀しい目をしてる……。

だから別れるんだ。
それが理由だ。




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