体育館12:25~私のみる景色~

「じゃあ、頑張ってね? 誰かが助けに来てくれるといいけど」


その言葉と微笑みを最後に、サエさんは扉をぴったりと閉めてしまった。


「ま、待って……!」


 こんなところに放置されたら、寒くて死んじゃうよっ!


 やっとのことで立ち上がってドアに近づいた瞬間、がたっと何かをはめ込む音がして、サエさんの足音も遠ざかって行った。


 もう内側から扉を開けることはできないらしい。


 何度扉を叩いてもびくともしない。


「誰か、いませんか……っ」


 何度も何度も叫ぶけど、声は倉庫内に反響するだけで、外には届いていない気がする。


 そもそもここは旧校舎。


 生徒も先生も、誰もこんなところに来る用はない。


 これ、本格的にまずいんじゃないかな……。


「そうだ、ケータイっ!」


 ごそごそとポケットをあさるけど、お目当てのものは出てこない。


 ああ、思い出した。


 ジュース買いに行くだけだったから、教室に置いてきちゃったんだ。


 なんでこういう時に限って、ケータイ持ち歩いていないんだろう……。


 でも、今はお昼休みだし、お弁当食べてる途中だったし。


 凉たちはきっと気づいてくれるはず。


 これが少し前だったら完全にアウトだった。


 数日前から佐伯先輩はお昼休みのバスケをしなくなって、凉たちとご飯を食べていたから。


 気づいてもらえる望みがあるだけ、まだマシだよね。


< 492 / 549 >

この作品をシェア

pagetop