体育館12:25~私のみる景色~
ひとしきり笑いあって、慶ちゃん先輩は真剣な顔をした。
「あのさ、ひとつ頼みがあんだけど……」
「ん、なに?」
すると慶ちゃん先輩は頬をうっすらピンクにして、私の反応を確かめるように恐る恐る言った。
「最後にするから、抱きしめてもいいか……?」
その言葉に、こくりと頷く。
それを見た慶ちゃん先輩は心底安心したように、私をふわりと抱きしめた。
慶ちゃん先輩の心臓の音が、ダイレクトに伝わってきて恥ずかしくなる。
だけど、落ち着く……。
「……なあ、これからも、今まで通りでいてくれよ」
「うん、もちろん」
私たちの間には、ふわふわ、柔らかい空気が漂っていて。
どちらからともなく身体を離して微笑みあった。
穏やかな空気に安心しきっていて、気が付かなかった。
誰かの足音がすぐ近くまで迫ってきていることに……。
「何、してるの?」
突然聞こえたその声は、私を一瞬で現実に連れ戻した。
抑揚のない声。
だけど、私が好きな声。
……佐伯先輩の声だった。