体育館12:25~私のみる景色~

 相変わらず激しく鳴る心臓を押さえる私を見て、みーくんはためらいがちに言う。


「センパイは、亜希には知られたくなかったんじゃない? 本当のこと。そればっかりは俺にもわからないけどさ。それに……これは、いいか」


 何かを言いかけたみーくんは、そのまま口を閉ざした。


 嘘をついた理由も、佐伯先輩がお花の意味を知ってたのかも、本当のことは何もわからない。


 だけど、今はそれでいいと思った。


 気になるし、知りたいと思うけど。


 でも、考えたって仕方のないことだから……。


「まあ、俺が言いたかったことってそれじゃなくて。いや、それもなんだけどさ。なんつーか、亜希には俺がいるし? あんまひとりで抱え込むなよってことをな、言いたかっただけ」


 いつものみーくんらしくない、おどおどとした口調に不思議に思いつつ、私を思って言ってくれたことが伝わって、胸がほっこりと暖かくなった。


「ふふ、ありがとね。私、みーくんが幼なじみでよかったよ」


 頭に浮かんだ言葉をそのまま言うと、みーくんは珍しく顔を少しだけピンク色に染めた。


「っじゃあ、俺もそろそろ帰るから。飯もろくに食べてないだろうし、ゆっくり休んでそのひどい見た目元に戻しておけよ?」


 ぐしゃぐしゃと私の髪を乱して、みーくんは私の部屋を出て行った。


 頭には手のぬくもりがほんのりと残っていて。


「……自分磨きしよ」


 ぼさぼさの頭を触りながら、そんなことを思った。


「たいがい俺もヘタレだよ……」


 ドアの向こうでしゃがみこんでいるみーくんの存在も、つぶやかれたその言葉も、私は知らない。



< 529 / 549 >

この作品をシェア

pagetop