体育館12:25~私のみる景色~
そわそわと落ち着かない私を見て、みーくんはなぜか切なそうにこげ茶色の瞳を揺らした。
「俺の母さんさ、ガーデニング趣味なの知ってるだろ? 花が好きでさ。だから、花言葉なんかもよく知ってたよ。この花にはどんな意味があって、とか。よく聞かされてた」
「……それで?」
「佐伯センパイにバーベナ渡されて、気づいたんだ。あの人は、ただ何も考えずにあの花を選んだわけじゃないって。だって、あの花言葉ってさ、“家族の和合”って意味があるんだよ」
「家族の、和合……?」
「そう。簡単に言うと、家族みんな仲良く、円満に。みたいな」
それじゃあ、佐伯先輩は本当に花言葉を知ってるってこと?
でも、偶然ってこともあるし……。
「家に飾るって話したからそれに見合う花を選んだんだよ、佐伯センパイは。憶測だけど。だって、亜希に渡したゼラニウムだって……」
それっきり、会話は途絶えた。
なんて言ったらいいのかわからない。
疑問が増えていく。
確かめるすべなんて、ないから……。
もう一度、ゼラニウムの鉢植えを見つめなおした。
それから、みーくんは再び口を開いた。
その表情は浮かなくて、何を話し出すのか一抹の不安がよぎった。
「……亜希は忘れてるみたいだけど。あの時、佐伯センパイ、父子家庭だって言ってたじゃん。俺、佐伯センパイが嘘ついたことも、知ってた」
「え……?」
知ったのは最近だったし偶然だったけど、と言うみーくんの言葉に衝撃が走った。
そうだよ、なんで忘れてたんだろう。
この前、佐伯先輩の口から聞いた家庭事情が頭に残りすぎて、そのことは記憶から抜け落ちていた。
でも、なんで嘘ついたの……?