体育館12:25~私のみる景色~

 そわそわと落ち着かない私を見て、みーくんはなぜか切なそうにこげ茶色の瞳を揺らした。


「俺の母さんさ、ガーデニング趣味なの知ってるだろ? 花が好きでさ。だから、花言葉なんかもよく知ってたよ。この花にはどんな意味があって、とか。よく聞かされてた」


「……それで?」


「佐伯センパイにバーベナ渡されて、気づいたんだ。あの人は、ただ何も考えずにあの花を選んだわけじゃないって。だって、あの花言葉ってさ、“家族の和合”って意味があるんだよ」


「家族の、和合……?」


「そう。簡単に言うと、家族みんな仲良く、円満に。みたいな」


 それじゃあ、佐伯先輩は本当に花言葉を知ってるってこと?


 でも、偶然ってこともあるし……。


「家に飾るって話したからそれに見合う花を選んだんだよ、佐伯センパイは。憶測だけど。だって、亜希に渡したゼラニウムだって……」


 それっきり、会話は途絶えた。


 なんて言ったらいいのかわからない。


 疑問が増えていく。


 確かめるすべなんて、ないから……。


 もう一度、ゼラニウムの鉢植えを見つめなおした。


 それから、みーくんは再び口を開いた。


 その表情は浮かなくて、何を話し出すのか一抹の不安がよぎった。


「……亜希は忘れてるみたいだけど。あの時、佐伯センパイ、父子家庭だって言ってたじゃん。俺、佐伯センパイが嘘ついたことも、知ってた」


「え……?」


 知ったのは最近だったし偶然だったけど、と言うみーくんの言葉に衝撃が走った。


 そうだよ、なんで忘れてたんだろう。


 この前、佐伯先輩の口から聞いた家庭事情が頭に残りすぎて、そのことは記憶から抜け落ちていた。


 でも、なんで嘘ついたの……?


< 528 / 549 >

この作品をシェア

pagetop