身代わり姫君の異世界恋綺譚
物の怪の気配は消えていた。


「この娘は物の怪ではないのか……? しかし鬼のような姿……」


清雅はどうしたら良いものか、その場に佇んでいた。






「清雅、その者は鬼ではない」


きっぱりとした声に、清雅は娘から顔をそらした。


「紫鬼っ!」


ここ3日ほど姿を見せなかった紫鬼が突然現れ、清雅はうれしくなった。

満面の笑みを顔にはりつかせ、紫鬼を見上げる。

紫鬼は清雅の背後に立っており、紫色の腰まである長い髪がさらさらと風になびいていた。

赤い瞳で娘をじっと見ている。

そして自分の腰ほどまでの少年に視線を移した。

「清雅、この娘が気に入った。清蘭にそっくりだ」

ほとんど笑みを見せない秀麗な顔の口元が上がった。

「紫鬼……」

清雅は気を失っている娘を見てみた。

――なるほど……良く見れば姉上に似ている……。

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