身代わり姫君の異世界恋綺譚
もう帰れないのだと思うと、途方に暮れる。

しかし、何度探しに行っても穴はないし、不思議な力のある紫鬼でさえ、穴はないという。

絶望感に襲われている所へ、清雅がやってきたのだ。

「紫鬼は?」

「目が覚めた時からいなかったよ?」

「そうか……」

珍しく真白に興味を見せている紫鬼だから側にいると思っていた。

「まだ夕餉までには時間があるな」

「……うん」

――まだ調子が悪そうだな。寝ていれば良いものを……。

「では夕餉の時間にまた来る。それまではゆっくり休むと良い」

「……うん」

真白はぼんやりと清雅を送り出した。

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