身代わり姫君の異世界恋綺譚
着物を羽織らすと、紅は女とは思えない力で真白を抱き上げた。

「べ、紅さん。私、走れます」

軽々と自分を持ち上げる紅の腕の中で言う。

「いいえ。時間がありません。すぐに行かなければ」

紅は中庭に出ると真白を抱きかかえたまま跳躍しながら塀に進んでいく。

塀を跳躍で軽々と越えると、紅が突然立ち止った。

――重かったのかな……。

「紅さん? 疲れちゃった?」

なぜか先を進もうとしない紅を気遣う。

「いいえ、真白様、これはあなたの為……そして清蘭様の為」

「何を言っているの?」

耳を疑った。

――どうして紅さんの口から清蘭さんの名前が?

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