僕の右手で愛を届けて
第一章 直子の才能
直子はこの夏休みを利用して、

僕ら家族の住む家でこの東京に上京して、一夏を過ごす予定だ。

ずっと行きたがってたディズニーランドやディズニーシー、
渋谷や原宿、新宿。
とにかく、直子はこの都会の情報を、その大きな瞳に吸い込もうとしている。



「タクミー! 早く、早く!」

人ごみの中から良く通る甲高い声。

小田急線新宿駅の改札口を抜けた直子は、
急ぐ気持ちをおさえて、僕に振り返った。

真っ白い手が、まるでうちわのように揺れている。

「おい、迷子になってもしらねえぞ!」

「卓美が遅いんじゃない!」

「切符を入れる順番ってものがあるんだよ!」

「いまどき切符なんか使ってる卓美が悪いんじゃない!」

直子は一丁前に、TASUPOのカードを手にはさんで腕を組んでいる。

僕は少しむかついて軽く頭をひっぱたいた。

「イタッ! バカ!」

直子は思いっきり僕の足を蹴り上げた。

「いってー!」

イタズラすれば何倍にも返ってくる直子のことは知っているが、
毎度毎度、やったあとに後悔する。

痛がっていると、直子はもう前を歩いている。そして、新宿アルタ前の景色を眺めて、絶句していた。

「すっごーい!」

そんな直子の感動した表情を見ていると、僕は足の痛みも忘れて見つめていた。

低い鼻、

大きな瞳に、

形の良い眉、

少しだけ厚い唇。



親戚みんなが、直子の将来に希望を持っていた。

この子はとびっきりの美人になる。

誰もが口を揃えてそう言っていた。


直子と写った写真が友達に見られると、みんな紹介しろとせがまれた。


そんな直子が、僕にとっては少し自慢だった。

直子自身は、その低い鼻が、とても嫌がっていたけど、
それが逆に人としての愛らしさとなっていた。


整形を加えた機械みたいな美人よりも、
僕は直子の低い鼻が好きだった。
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