僕の右手で愛を届けて
「タクミも来てよー!」

「どうしてオレが!?」


ここに来て僕は一緒に事務所に行くことを拒んでいた。

どうしてだろうと僕は思っていたが、


今思うと、きっと直子が遠い存在になるのが怖かったからだ。


だけど、次の日、結局、僕と母さんと僕で、一緒に、スターライトエージェンシーの事務所へと向かった。



とても大きなビルだった。

正面玄関の床タイルは真っ白く磨かれていて、高い天井のライトを眩しく照り返している。

母さんと僕と直子が、
受け付け前に近づくと、すでにスカウトマンの高倉さんが立っていてくれた。


応接室に通されると、高倉さんの隣に座ったのは、スーツを来た、白髪交じりの初老の男性だった。

「事務所社長の宮元です」

高倉さんから、そう紹介されると、初老の男性は、柔らかい笑みを浮かべて、

「ようこそ、お越しくださいました」

と、深く頭を下げてくれた。


宮元さんは、直子を本気で女優にしたいということ、事務所で予算を組んで、直子の演技指導を行うこと、山口から東京に通うも、こちらに住むも、交通費や住む場所の手配もすること。

すべて好条件だった。

こうも条件がいいと、逆に怖い。


僕はじっと、高倉さんと社長の宮元さんを見つめていた。


「卓美くんが怖がるのも無理はないですよね」

高倉さんはまるで僕の心を読んでいるようだった。


「でも、安心してください。きっと直子さんは良い女優になります。私にはわかるんです」

「実は高倉の目を一番、当てにしているんですよ。うちの末松も高倉がスカウトしてきたんですからね」

宮元さんはそう言ってまた微笑んだ。


直子はずっと、下を向いて口をつぐんだままだった。
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