我等オカ研特捜部
 韋駄天清子の人生も悲惨なものだった。

 彼女は若くから足が強く、若い頃はそれなりに美しかった(らしい)。

 昔からの健脚は老いてからも健在で、遠く姥捨て山に自ら行き、何食わぬ顔で山菜を山盛り持って帰る程であった。

 それだけ働けるならと口減らしの為に追いやる事は無いと認められ。

 年をとっても若い者に埋もれる事なく働いていた。
 
 しかしある夜事件が起きた。
 
 清子の孫が高熱を発してしまい、もはや助かるまいと村の医者に見捨てられたのである。
 
 不憫に思った清子は孫をおぶり隣の大きな村に行くと言って家族の制止を振り切り夜中に出立した。
 
 夜の山道は容赦無く清子の足を傷つけ、体力を奪っていった。
 
 やっとの思いで隣村に着いたが夜明け前の村には人通りが無く、道を訪ねても煙たがられ医者の屋敷に着いた頃には孫は息を引き取ってしまったという。
 
 清子は嗚咽を漏らし落胆し、孫の亡骸をおぶって自分の村に帰ると家族からは息子の死に目を奪ったとけなされた。
 
 彼女は1人村を出てまた姥捨て山へと向かった。
 
 清子はあらゆるものを呪った。

 時代も、山も、人も。

 しかし一番呪ったのは自分の足だった。
 
 今までの人生で唯一自慢出来た傷だらけの足は今では一番忌み嫌う存在になっていた。

 孫を救えなかった遅い、役立たずの足として。

 多くの捨てられた老人の怨念が募る山に彼女は足を踏み入れ死ぬまでさ迷い歩き、足を痛めつけ死んだ。

 そしてマスター同様、妖怪に化けたのだという。
 
 驚く事に戊辰戦争では旧幕府軍の伝令として活躍したともいう。
 
 今ではその人間に近い容姿と俊足で色々な妖怪の買い出しや、連絡係になっているそうだ。
 
荒木
「交通事故とか起こすから最近の妖怪だと思ってました」

清ばあ
「ジェットばばあ?

 ターボばばあ?

 最近のガキが老人に敬意を表さず変な名前つけおってからに、それは車が出てきたのが最近なだけで昔からおるわい」

 喋りながらマスターに頼まれていたであろう商品を背中のリュックから出しマスターがそれを受け取った。

谷口
「でも事故を起こすんですよね?」

清ばあ
「こっちは気を使って夜しか走らんのにな、最近の人間は夜も走りよるからじゃ、まあわしの美貌に見とれて事故を起こすのは無理ないわ」

谷口
「美貌?」

清ばあ
「文句あるか?」

 谷口は頭を押さえられた恐怖を思い出し黙った。

小山
「でもアヤネさんとタタミちゃんってそんなに有名なんですか?」

谷口
「文献にもあまり残って無いんですけどね」

マスター
「わざわざ殺さず、封じ込めるのに精一杯って程の鬼ですよ?

 多分記憶に残らないまじないでも結界にかけられてるんだろい」

清ばあ
「信仰や恐れが無くなれば弱体化していく輩は我々夜行衆にもおるでな。

 親子も猿も私は変化じゃからあまり影響無いがな」

谷口
「人の概念が産み出した妖怪と、元々あった物が要因で生まれた妖怪の違いですね」

清ばあ
「そうなるな。

 あの二人は特別じゃ、人だろうが妖怪だろうが関係無く食う悪食でな。

 またそれだからこそ強かったのかもな」

荒木
「信じられないなー全然そうは見えないのに」

清ばあ
「この猿みたいに容姿や言動で人を脅かす必要が無い位の実力を持っとるってことよ」

谷口
「成る程なー、でも見えないや」

マスター
「鬼から転じて仏門に下って守護職やってる方もいますしねい」

谷口
「鬼子母神ですね?」

清ばあ
「お前等もう遅いし帰った方がえくないか?
 
 そろそろ他の夜行衆もきよるぞ」

荒木
「マスターまたコーヒー飲みに来ても良いですか?」

マスター
「嬉しいねーでも客の来ない昼に来なよい、気の荒い奴もいるし」

谷口
「そうします」

 谷口は清ばあを見た。
 
 三人はちょっと高めの料金を支払い、去り際に清ばあから安全運転を心がけるように言われ、店を後にした。

 さっきまで明るかったのに、もう夕暮れを知らせるオレンジ色の光が谷間の道路を薄く照らしていた。

 怖い思いをしたけど、乗りきった先に待っていたのはそれに見合う十分な情報という報酬であった。

 三人は安堵からであろうか皆泣き笑いながら帰路に着いた。
 
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