声

始

ー平成２５年・夏ー

今日も変わらない１日が始まる。

いつも通りの退屈な1日。


「森田さん、これ、次の企画。まとめておいてもらえるかな。」

「分かりました。」


男性社員に書類を渡され、それをパソコンで纏めていく。

【森田 叶】

旅行会社勤務の22歳。

事務職員として裏方でパソコンと向き合う日々。


ーいざ、幕末！歴史弾丸ツアー！……って……歴女狙いかぁ…………ー


渡された企画内容を見ながら無機質に打ち込んでいく。


ー今日は買い物して帰らなきゃ。お給料も出たしー


朝から既に帰りの事を考え、生きていく為に働き、気付けばそれだけの日々。


「叶ちゃん、叶ちゃんてば！」


呼ばれながら肩を叩かれ、ハッとする。


「あ、ごめん。ぼんやりしてたみたい。」

「もぉっ、ランチの時間になってるのに。」


盛大に溜め息をつくのは同期の【野原 千草】


「叶ちゃん、お弁当でしょ？私、今日は忘れちゃったから何か買ってくるね。」

「うん。一服してからだからゆっくりでいいよ。」

「止めればいいのに、タバコ。」


そう言いながら千草は出ていった。


ー止めれば……かぁ……うん、分かってはいるんだけど、ね……ー


少し重い足取りで叶は喫煙所に向かった。