真っ黒なヤギさんのお・は・な・し。
真っ黒なヤギさんと白ヤギどん
今日もお外は良い天気。
真っ黒なヤギさんは、
お気に入りの本を一冊持って
近くの公園へと来ていました。


そこへーーーー


真っ黒なヤギさん、
真っ黒なヤギさん、


と、食いしん坊の白ヤギどんが
やって来ました。


なぁに?
白ヤギ丼?


真っ黒なヤギさん、
僕、丼じゃないよぉ。


あら、
貴方の見た目が
美味しそうだからつい……ねっ?


と、ウインクしながら
とても、お茶目な真っ黒なヤギさん。


気にしないでちょうだい。
ジョークよジョーク。
で、何かご用かしら?


そうそう、
真っ黒なヤギさん、
僕ね、お腹空いちゃって
空いちゃって……。


お腹が……?


そう、お腹がね
空いちゃったの……。
もう、ペコペコ……。


と、白ヤギどんの目は
自然に真っ黒なヤギさんの手元へと……。


ゴクリ。


ちょ、ちょ、ちょ、
ちょっと待ちなさいよ。
これはダメよ。


と、読みかけの本を慌てて隠す
真っ黒なヤギさん。


ええ~。
ダメぇ?
ほんの少しで良いからぁ。
本の少しだよ?
本だけに……。


本の……って……。
はい、面白くないからダメぇ~。


白ヤギどんはガッカリします。


するとーーー


仕方ないわねぇ。
少しだけよ。
もう、このページは読み終えたから、
貴方にあげるわ。


途端に白ヤギどんの顔が
パッと明るくなりました。


真っ黒なヤギさんは、
こうして誰かが喜ぶ顔を見るのが
とても好きでした。


逆に哀しい顔を見るのは
とてもとてもつらいのでした。


ピリピリ
ビリビリ
ペリッ


はい、どうぞ、
白ヤギどん。


わぁーい。
ありがとう。
真っ黒なヤギさん。


どういたしまして。


真っ黒なヤギさんは
そういうとまた、本に目を
落としました。


じぃ~~~。
まだ白ヤギどんは
真っ黒なヤギさんを見ていました。


な、なによ。
まだ、欲しいの?
ダメよ。
このページはまだ、読んでないんだから。


ち、ちがうやい。


ブンブンと白ヤギどんは
首を縦に振ります。


どっちやねん!


時に真っ黒なヤギさんは
突っ込みます。


うん、ちょっとは食べた……
いやいや、本当に違うんだってば。
本当にね。
違うんだ……。


と、モジモジしだす白ヤギどん。


どういうこと?
どうしたのよ?
話してごらん?


真っ黒なヤギさんは、
ちゃんと白ヤギどんの話を
聞こうと思いました。


あのね、
僕ね……そのぉ……。


ごにょごにょごにょ。


白ヤギどんは真っ黒なヤギさんに
そぉっと、耳打ちしました。


なぁんだ。
そうなの?
良いわよ。
それくらい、容易いご用よ。


そう言って、
にっこり優しく笑うと
真っ黒なヤギさんは
本をまた開いて、
声に出して読み始めました。


そうです。
字の読めない白ヤギどんの為に
真っ黒なヤギさんは、
声に出して読んであげたのです。


だけどーーー


真っ黒なヤギさん、
僕が初めのページ食べちゃったから、
話が分からないよ。


あっ。
それもそうね。
じゃあーーーー


真っ黒なヤギさんは、
白ヤギどんが食べたページの所のお話を
すらすらすらすらと
話始めました。


真っ黒なヤギさんは、
好きな本の話は大抵、
頭の中に入っていました。
いいえ、心の中においてありました。


………………と、言うわけね。
ここまで分かった?


うん。
大丈夫だよ、とてもよく分かった。


じゃ、続き読むわね。


そう言うと、
真っ黒なヤギさんは、
また、ページを捲りながら、
読み始めました。


真っ黒なヤギさんは、
このページを捲る、という行為が
とても好きでした。


ページを捲るときに
ふわっと香る
紙とインクの匂いも好きでした。


一ページ捲ると
ふわっ


また捲ると
ふわっ


またまた捲ると
ゴクリ


もひとつ捲るとゴクリ……。


あのさぁ……。
と、
真っ黒なヤギさんは、
一旦、ページを捲る手を止め
白ヤギどんに言いました。


あのさぁ……、
ゴクリゴクリって
気になるんだけど、
もしかしてまだ、お腹空いてるの?


真っ黒なヤギさんの
問いかけに、
今度は素直に首を縦に振る白ヤギどん。


しょうがないわね。


そう言うと、
真っ黒なヤギさんは、
読み終えたページを破くと
白ヤギどんに渡しました。


あ、あ、ありがとう!
真っ黒なヤギさん!


ムシャムシャムシャムシャ……。


そこからは、
真っ黒なヤギさんが
声に出して本を読む

ペラリとページを捲る

ピリピリ
ビリビリ
ペリッ とページを破る

白ヤギどんに渡す

ムシャムシャムシャムシャ
ゴックン!


こうして賑やかに本を読むものだから、
なんだ、なんだ?
何か面白そうな事をしているぞ
と、
いつの間にか、真っ黒なヤギさんの
回りには、他のヤギ達も
たくさん集まって来ました。


あちゃぁ……。
私、目立つの苦手なのよね……。


だけど、
白ヤギどんを初め、
まわりのヤギたちの
嬉しそうな
楽しそうな
幸せそうな……顔を見ると、


まっ、いっか


と、思うのでした。


ほんの少し涼しくなってきた空のした
今日もどこかで
真っ黒なヤギさんが、
大好きな公園で
大好きな本のページを
捲っていることでしょう。





優しい優しい真っ黒なヤギさんの
お・は・な・し
でした。
おしまい!














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