香る風の果て
公園のベンチに腰を下ろして、缶コーヒーを口に含んだ。ゆっくりと鼻を通り抜けてく香りが、ふうと吐いた溜め息とともに消えていく。
「どうして、ここにいるの?」
「急にコッチ方面の出張が入ったから、足を延ばしたんだ、びっくりした?」
篤史は悪戯な笑顔で答えた。前に会った時と変わらない、不安なんて微塵も感じさせない笑顔。
きゅっと胸が締め付けられる。
「だったら、電話ぐらいしてくれてもいいでしょ?」
「だって、友紀を驚かせたかったから」
言い放ってやったのに、篤史は悪びれる様子もない。私の方を向いて目を細めるから、ふいと顔を逸らした。
帰れないって言ってたくせに……
なんだか悔しくて唇を噛んだ。
会いたかったなんて、絶対に言うものか。会えて嬉しいなんて、認めたくはない。
強がる気持ちが、ぐらぐらと揺らいでる。今にも溢れ出してしまいそうな気持ちに、ぎゅっと蓋をした。
「俺が会いたかったんだ」
むっとした声とともに、肩を抱き寄せられた。頰と頰とが触れ合って、篤史の温もりが体に沁みていく。
「友紀、お願い。ちゃんと言ってよ」
耳元で囁いた篤史の言葉が、大きく胸を揺さぶる。