香る風の果て
「友紀は遠慮しすぎだよ、篤史君の彼女でしょ? 彼女なら多少の我儘ぐらい言ってもいい……っていうか、言うべきだよ」
苛立ちを露わにする理央の言葉に、胸が揺らぐ。
我儘を言いたいと思ったことは、今までいくらでもある。でも、言えなかった。篤史の負担になりたくなかったから、篤史に嫌われたくないから。
不安は常に心の中に潜んでいて、ふとした拍子に顔を覗かせる。もし近くに居たら、いつでも会える距離に居てくれたなら、感じなかったのかもしれない。
だけど、私たちを隔てる距離はあまりにも遠すぎて。
「仕方ないよ、仕事を放ってはおけないもん。私だって休めない時もあるし、理央もそんな時もあるでしょ?」
自分を納得させようとするもっともらしい答え。
電話の向こうから、理央の大きな溜め息が聴こえた。
「仕方ないって……友紀の口癖になってるよ?」
そう、理央の言うとおり。
仕方ないって言い過ぎてる。
そう言わなければ、自分の気持ちを制御できなくなる。