罪でいとしい、俺の君
2
リアと住み始めて二週間。
デイトレードは既に元金の四倍以上。リアの読みに乗った買いと売りはどんぴしゃで、うちからは損失を出さずに利益を生んだ。
相変わらず暇だ暇だと繰り返すリアだが、デイトレード関連の専門書籍を一冊用意してやったら、二日まともに部屋から出ず、出てきた時には元金は世間馴染みの外車が買えるほどに膨れ上がっていた。投資や先物取引に強い、勘の鋭い類だ。つい最近まで流行に目敏い女子高生だっただけあるな。
稼いだ金のほんの少額を通販での買い物に使う。外出は相変わらず許可していない為、日用品から消耗品まで通販を利用するが、必要に迫られない限りアレコレと衝動買いはしないらしい。

「ピッキングは済んだか?」
「昨日スーツケースが届いたから、あと少し。でも今日中に終わる~」
「荷物は必要最低限でいいぞ。向こうで必要なら調達する」
「現地調達!?」
「遺骨の手続きが必要だ。すぐ出掛ける」
「あ…うん」



翌朝、迎えに来た井原に空港まで見送られ、ジェットに乗り込んだ。これから七時間半の空の旅だ。
機内にラップトップを持ち込み、互いにディスプレイに注視していたが、ものの一時間で気付けばリアは眠っていた。
前夜はいろいろな事が巡って寝付きが悪かったんだろう。シートを倒してブランケットを掛けてやれば、深い寝息が聞こえた。


食事をする事なく寝ていたが、さすがに到着前の軽食だけは起こして食べさせた。少しうつらうつらとしながらも、もそもそとベーグルにかじりつく。その姿に思わず笑みが零れそうになった。

空港からは井原が手配したホテルに直行。海には明日出る事にしていた。

「井原っ!」
『怒鳴らなくても聞こえてるよ、征志郎』
「どういう事だっ」
『どこぞのセレブが貸し切ってるせいで、最上級クラスの部屋はそこしかとれなかったんだ。その様子じゃあフロントにも駆け込んだんだろ?』
「他を当たれっ」
『無理言うなよ、こっちは征志郎不在で手一杯だ。じゃあ新婚気分でも楽しむといい』
「おいっ!」

無情にも電子音が続き、俺はどっと疲れた気がした。
キングサイズの天蓋付きベッドの部屋は、新婚旅行者向けの仕様になっている。仕方なくリアにはここしか取れなかったと言えば、海が見えるし景色は綺麗だと。
部屋の中央に鎮座するこのベッドは視界に入らないのか!?

「…飯でも食いにいくか?」
「うん、行く。ロコモコ食べてみたい」
「じゃあ地元の食堂にするか。いいところを知ってる」
「うんっ」

沈み込んでいたのが嘘のように可愛らしい笑顔。

「迷子は困るからな…ここを押せば俺にすぐかかる」
「海外版安心だフォン……」
「必要な事態が起きないように気を付けろよ」
「ぜぇ~ったい使わない!意地でも迷子に何てなんないっ!」

リアはそう言って腕にしっかりとしがみついてきた。妙に気持ちが高揚する。

「一番確実♪くっついてればいいもんね」

確かにそう何だが…腕を組まれたのは初めてじゃない。寧ろ慣れている。好きでもない女と仕事の付き合いで食事に行くのはしょっちゅうだ。スタイルのいい女は胸を強調して腕に押し当ててくる事もあった。
そんな状況とは比べものにならないほど、自然と腕に触れる柔らかい感触にどうにかなりそうだ。俺にロリコンの気はない…はずだ。リアはまだ未成年だが法律的には結婚が出来る年齢で…。幼いと言う表現は似つかわしくない。

考えを巡らせながら歩いていると、思わず店をスルーしそうになった。この店はオアフに来ると必ず立ち寄る。夜はバーだが昼は食堂になる。店主は大学時代日本に留学していて、俺や井原とも旧知だ。

『征志郎!?久しぶりだな』
『ああ、ビル。元気そうだな』

ウィリアム=ブラウン…ビルはカウンターを飛び越えて体当たりをかます。リアが倒れないように支えた。

『お前が女の子を連れてくるなんて初めてだな』
『そうだな』
『紹介してくれよ』

お店に入ってすぐ、カウンターの中にいた男の人が、カウンターを飛び越えて来たのに吃驚。体当たりされて私までヨロケそうになったけど、うまく支えられちゃった。仲良さげに話を始めて、チラチラと私を見た。

「こいつはビル。大学時代の同級だ」
「同級生!」
『ビル、リアだ。瀬名リア。今のところは保護者だが…手を出すなよ』
『OK、わかってるって。よろしくな、リア』

手を差し出されて握手を求められてる事に気付いて。手を差し出すともの凄い勢いで上下に振られた。
ビルさんは豪快な人だったけど、初ロコモコは美味しかった。目玉焼きハンバーググレービーソースがけって感じ?
それからショッピングモールで久々の外でのお買い物!いろいろ試着してみたりして、幾つか買った。

「今夜はフラのショーを見ながらのディナーだ。ドレスを一着買ってやる」
「フラのショー?」
「ああ。ホテル主催のものだからな」

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