ただ、名前を呼んで
・ビデオテープ

葬儀には出なかった。

あんな箱の中に母が居るなんて思えなかったし、雰囲気に耐えられなかった。


内藤さんに頼んで何枚か貰った母の写真を机に広げる。

僕は一人でお別れを言おう。

「またね」って僕は言ったけど、今日は別の言葉を言わなきゃいけない。

「さよなら」って。


一つ一つ、僕は思い出していく。
大切に、壊れないように。


最初に会った時の母は僕に全然無反応だった。

だけど初めて会った母親に、僕の胸が切なく声を上げ、泣いてしまったんだ。
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