ただ、名前を呼んで

大きな建物の、通い慣れた一番奥の部屋。

静かな扉をスッと開く。
母はベッドの上で半身を起こして、窓の外を眺めていた。


僕の知っている母はいつも無表情で、時折微笑んでいるような、もしくは泣いているかのような顔をしていた。


眩しい日差しが母の顔を照らす。

かつて、こんなにも穏やかな母を見たことがあっただろうか。


その場の空気を少しでも震わせてしまうのが嫌で、僕は入口に立ち尽くす。


お母さん。
その光の向こうには、何が見えますか?
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