ただ、名前を呼んで
その日母方の祖父母が現れることはなかった。

だけどチャンスは今日だけじゃない。

だって帰り際、祖父と祖母が母に向かって言ったんだ。


「また来ますね。」


僕はなんだか嬉しくて。嬉しくて嬉しくて、祖父母の手を両手に握った。


祖父と祖母と僕とで歩く帰り道。

今日も綺麗な夕焼け空だ。僕らはじっと夕日を眺める。

ゆっくりと沈む夕日を指さして、「あそこのビルの間に沈むよ。」と僕は言った。

辺りの朱色が色を変え始めても、僕らは急ぐことなくゆっくりと歩いた。
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