上司のヒミツと私のウソ
「何年か前に地域限定で『クリアオレンジ』の復刻版シリーズをやったらしいんだけど、それ何年かわかります?」

「福岡ですよ。二〇〇一年だったとおもいますけど」

 万事、この調子だ。

「あーもうやだ。倉庫の整理なんかするんじゃなかった!」

「なんで? いいじゃん。みんなあんたの存在価値に気づき始めたんじゃないの」


 昼休みの食堂でぼやくと、安田はまじめな顔で大げさなことをいった。こんな生き字引みたいな存在価値って、複雑なんですけど。

「案外、課長はそのあたりを狙って倉庫の整理をやらせたのかもよ? 倉庫は企画部の歴史が詰まってる場所だし、くどくど説明するより手っ取り早いとおもったんじゃない?」


 私は返事をしなかった。矢神の話はしたくない。

 だけど安田はそんな私の気持ちなどおかまいなしに、どんどん話を嫌な方向へ持っていく。


「ちょっとおもったんだけどさ。矢神課長が会社で煙草吸うようになったの、最近だとおもうんだよね」


「……なんで」


 つい、返事をしてしまう。
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