上司のヒミツと私のウソ
 要するに、あのプロジェクトに関わっていた人間なら、誰でもよかったのか。

 本間でも、俺でも。


「チャンスはない」


 断言すると、西森が信じられないとでもいうように非難めいた目で俺を見上げた。

 俺は西森の視線を無視して、昇降口へ向かう。


「ファイル、返してください」

「これは俺が預かる。この件は忘れろ。いいな」

「嫌です」


 足を止めて振り返る。

 噛みつくような表情で、西森が俺を睨んでいる。


「あのな。いくらこの企画に対するおまえの思い入れが強くても、プロジェクトはひとりじゃ動かせないんだ。会社が中止と決めた以上、どうにもならないんだよ」

「そんなの、覆せばいいじゃないですか。私、あきらめませんから。ひとりでもやりますから!」


 どうせそのうちあきらめるだろう。勝手にやらせておけばいい。どうにもならないことを身をもって知るのも勉強のうちだし、この資料は頭が下がるほどよくできてる。

 それに、俺は西森に謝らなくてはならないことがある。


「人事部にもどれ」


 言葉の意味を理解できずに、西森が空ろな目で俺を見返した。


「身勝手な人間は企画部には必要ない。おまえはクビだ」


 どうして、用意した言葉とは別の言葉が出てしまうのだろう。
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