上司のヒミツと私のウソ
 そのときはそれだけで話がすんだ。

 だがそのあとで、安田はこうもいったのだ。


 とにかく今は、複雑にこんがらがっている糸をほどくのが先だと。それまで、西森のことは私に任せてください、と。


 力のある、生き生きとした目だった。はじめて、安田が隠し持っていた純粋な部分に直接ふれたような気がした。


 あのとき、俺は安田を信用した。

 そして、その判断は間違っていなかった。


 西森は宣伝企画課の中で信頼をとりもどしつつあるし、そうすれば企画部全体で彼女の評価が見直されるのも時間の問題だろう。

 そしてこの流れで『RED』が成功すれば、あとはもう心配いらない。まっとうな努力で成功した人間の評価は、そう簡単には崩れないからだ。


 そういうわけで、安田のやることに口を挟むつもりは一切ない。おもうところはあっても見て見ぬふりをしてきた。


 だが、今回はそうもいっていられなくなった。
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