最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
憧れの先輩

ここはある中堅の出版社の広告部。俺はその中の一部門である企画制作チームに所属している。

新卒で入社していきなりここに配属され、初めは右も左も解らなかったが、丸2年を過ぎ、ここに来てようやく仕事の何たるかが解って来たように思う。


チーム員は俺を含めて5人。今は3人出払っていて職場にいるのは俺と隣に座る主任の二人だけだ。


「あの……主任?」


これはチャンスとばかりに俺は主任に話し掛けた。


「なあに、川田君? 」


主任はパソコンから目を離し、俺を向いて銀縁の眼鏡をキラッと光らせた。かどうかはわからないが、そんな風に俺には見えた。

チームリーダーの主任は女性で、歳は45か46ぐらい。独身で、仕事のスキルはもちろん俺なんかよりも数段上だ。主に化粧品やファッション関係の広告制作を担当している。


「俺、そろそろ違う業種の仕事もしたいかなって思うんです」

「急にどうしたの? 今の担当じゃ不満?」

「そういうわけじゃないんですが……」


俺の担当はずっと車とIT関係だが、どちらも好きだし俺の得意分野だから不満があるわけではない。


「だいぶ仕事が解って来たので、ここらでスキルアップを図りたいかなと……」

「そう? で、何をしたいの」


来た! ここが肝心なんだよな。


「化粧品やファッションなんかをやってみたいです」


俺は主任の目を真っ直ぐに見てそう言った。主任が聞き入れてくれる事を強く願いながら。ところが……


「却下」


即答だった。しかも拒否。

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