最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜

「川田君……?」

「め、目にゴミが入ったみたいです。あはは」


俺は慌ててハンカチで目を押さえたが、涙のやつ、勝手にどんどん出て来て止まらない。かっこわりい……


と、その時、中嶋さんが店に入って来たのがわかった。涙で視界が霞んでも、あの人のド派手な容姿ですぐに気付いた。


「来ましたよ」

「え? な、中嶋君?」

「じゃあ、俺はこれで……。恭子さん、がんばってくださいね。でも、もしも失恋したら……俺、待ってますから。何年でも」

「待って、川田君!」

「さようなら」


俺は小走りで喫茶店を出て行った。背後で恭子さんが俺を呼び止め、中嶋さんが「おい」と言って俺の肩に手を触れたが、それらを振り切り、“恭子さん、幸せになってください”と心で祈りながら……



真っ直ぐアパートに帰り、タバコを吹かしながら冷蔵庫に入っていた缶ビールをありったけ飲んだ。なのに、ちっとも酔えない。酔った気がしない。こんな時に限って……


今頃恭子さんと中嶋さんはどうしているだろうか……
もしかして、ホテルに直行して……なんて事はないだろうな。

いや、あるかもしれない。


ああ、くそっ。なんて女々しいんだ、俺は。


コンビニにビールを買いに行こうかと思ったその時、部屋のチャイムが鳴った。

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