最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
どうせ新聞の勧誘とかだろうと思い、俺は放っておこうと思った。ところが何度もチャイムが鳴るので、仕方なく俺は玄関へ行ってドアを乱暴に開けた。
あれ? 誰もいない。と初めは思ったが、地面に人がうずくまっていた。その人とは……
「……恭子さん?」
まさかの恭子さんだった。恭子さんがうずくまり、下を向いて肩で大きく息をしていた。
「恭子さん、どうしてここに? 恭子さん!」
ひざまずいて恭子さんの顔を見たら、彼女は青白い顔をして目を閉じ、ハアハアと口で荒い息をしていた。
「恭子さん、大丈夫ですか? しっかりしてください」
俺はそこに座り、恭子さんを抱きかかえた。すると恭子さんは虚ろな目を開き、こう言った。
「バカ。“シマ”違いよ」と。
意味がわからない。それよりも恭子さんが心配だ。
「恭子さん、どうしたんですか?」
「心臓が……」
「心臓?」
「ポンコツだから……」
心臓の発作か?
恭子さんは心臓が弱かったんだ。くそっ。なんでそれに気付かなかったんだ、俺は!
「川田君……」
「無理に話さない方がいいです。すぐに救急車を呼びますから」
「ううん、言いたいの。ありがとう。あなたの気持ちが……とても嬉しかった。好きよ。大好き」
「恭子さん……」
「よかった。最後に言えて。私の分まで……長生きしてね?」
恭子さんはそう言ってニッコリと微笑んだ。100万ドル……、いや、そんなんじゃ言い表せないほど、それはそれは綺麗な笑顔だった。
そしてその直後、恭子さんはゆっくりと目を閉じた。