最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
「いっその事、会社を辞めてはどうですか?」
俺はそう言って恭子さんを見た。驚くだろうか。余計なお世話、と言われるだろうか……
そんな心配をしたが、意外にも恭子さんは穏やかに微笑んだ。
「母からも言われたわ。同じ事を……」
「なんだ、そうか。その方がいいと思うんです。恭子さんにとって。専業主婦じゃ嫌ですか?」
「嫌って事はないんだけど、私としてはしばらくでいいからお仕事を続けたいと思ってるの」
「どうしてですか? 無理して働かなくてもいいと思うんですけど……」
「私だって無理をする気はないわ。手術を受けて元気になったら、という前提でよ?」
「はあ……」
俺はよく知らないが、恭子さんの心臓は手術を受けても完全に治る事はないと思う。10年ぐらい経つとまた手術が必要になるらしいし。
という事は、仕事とかはしない方が体が楽だと思うけどなあ。
「私ね、今まで人と同じように出来なかったの。走ったり、運動したり。山歩きもした事ない。性格は地味で暗くて、友達も出来なかった。莉那を除けば」
恭子さんが歩んで来た人生を思うと、俺は涙が出そうだった。心臓が丈夫な俺では完全に理解する事はできないが、例えば階段の前で泣きそうになる恭子さんの顔を思い浮かべると、ある程度は解る気がした。
「私……今までの自分にさよならしたいの」