最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
「わかった、川田君?」

「ええ、まあ。でも、どうしてですか? 恭子さんって人、唇にコンプレックスでもあるんですか?」

「ん……そんなところね」

「だったら、褒めるのはいいですよね? 例えば“その口紅、綺麗ですね?”とか……」

「それもやめて。とにかく彼女の唇の事には触れないで。たとえ何かに気付いたとしても」

「はあ……」

「これ大事な事だから、絶対に忘れないでよ?」

「わかりました」


と返事したものの、たかが唇の色に触れるとか触れないとか、そんな事が大事だとは到底思えなかった。ま、莉那先輩がそこまで念を押すなら、しっかり憶えておこうとは思うが……



「ご馳走さまでした」

「どういたしまして」


勘定はせめて割り勘にしましょう、と俺は言ったのだが、莉那先輩は「私が誘ったんだから」の一点張りで、結局は奢られてしまった。


「楠さん、送って行きましょうか?」

「大丈夫よ。私、そんなに酔ってないから。それより川田君は大丈夫なの? 送って行こうか?」

「だ、大丈夫ですよ。これぐらい……」

「そう? じゃあ、近い内に恭子を引き合わせるから、その時はよろしくね?」

「はい」


お互いに乗る路線が違うため、莉那先輩とは駅で別れた。その後俺は電車に乗り、寝過ごしてえらい目に遭った。飲み慣れない日本酒を飲み、自分で思ったよりも酔っ払っていたらしい。

夜中になんとかアパートにたどり着き、こんな事なら莉那先輩に送ってもらえばよかったな、と思ったが後の祭りだ。

< 23 / 191 >

この作品をシェア

pagetop