最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
駅に着き、階段を半分ほど上がった所で、横にいたはずの恭子さんがいない事に気付いた。
立ち止まって後ろを向いたら、恭子さんは数段下で立ち止まり、俯いて肩で息をしていた。苦しそうに。
「恭子さん、どうしたんですか?」
階段を駆け下りて彼女の顔を覗き込んだら、
「どうして……エスカ……レーターを……使わないのよ!」
恭子さんは途切れ途切れにそう言い、俺をきつく睨んだ。
恭子さんはエスカレーター派か? 俺はどちらかと言うと階段派だな。エスカレーターって、なんか苦手なんだよなあ……なんて事を考えてる場合じゃないな。
「すみません。歩けますか?」
と俺が聞くと、恭子さんは俯いたまま首を小さく横に振った。
うーん、どうすっか。このままじゃ他の人の邪魔だしなあ。うん、それしかないか……
俺は恭子さんの手から手提げバッグを受け取り、自分のバッグと合わせて左手で持ち、右手を恭子さんの背中に回し、そのまま恭子さんの脇の下に差し入れた。
当然ながら恭子さんは、ハッとして顔を上げると、怪訝な顔で俺を見た。