最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜

「やべえ、コンソールの交代時刻を過ぎちまいそうだ」


田上は時計を見ながら焦っていた。時間厳守の職場って大変だなあ。そこ行くと俺の職場は自由でいいなあ。

俺は田上と同じフロアでエレベーターを降りた。中嶋さんについて、田上は無視すればいいと言ったがやはり気になる。どんな人か、顔だけでも見ておきたいと思ったのだ。


「開発チームはあの辺さ。じゃあな。何かあったらまた話せ。いいな?」

「おお。今日はサンキューな?」


職場に向かって走る田上の後ろ姿を見て、俺は感謝したい気持ちでいっぱいだった。

さてと、中嶋さんはいるかなあ。


田上が「あの辺」と言った辺りを見たら、おお、いたいた。すぐに茶髪で色黒の男が俺の目にとまった。誰かと話しながら、白い歯を見せ笑っている。


うーん、かなりのイケメンだな。


ふと壁を見たら、座席表らしきものが貼ってある事に気付き、恭子さんの席を探した。

五十嵐、五十嵐……あった。ん、恭子さんの隣は中嶋さんかあ。あ、今朝電話に出た軽い人は中嶋さんだったんだな、きっと。なるほどね……


毎日隣にいながら、相手に想いを伝えられない恭子さんの気持ちを想ったら、なんだか哀れで涙が出そうになってしまった。

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