どす黒い涙は世界を救わない
その腹をもしも切り裂いたらブリキの太鼓の映画のように鰻が、にょろにょろと出るのだろうか?そう考えたらおかしくなって笑ってしまいそうになったがブリキの太鼓の映画だったか思い出せずに少し苛ついた。
女と年下のナルシスト彼氏は席を移り何かひそひそと話していたが、客は三人だけだしお前達の会話が聞こえても僕もマスターも全く興味がない事に二人は気づかないのだろうと思えた。
しばらく気持ちの悪いひそひそ話しと二人の香水の匂いだけがバーに漂っていた。
決して気分の良いものでは無くて僕は、靴を脱いで二人の頭を叩きたくなる衝動を押さえるのに精一杯だったのだ…
女が、突然泣き出して男は慌てずそのこんもりした背中をさすっていた。
まるで競馬の時に岡部幸雄が、馬を安心させる姿に似ていたが、僕は、岡部が、嫌いだった事もついでに思い出してしまった。
女の涙はマスカラのせいで、黒く顔に流れていた。
醜い物は醜いと言いたかったし昔小学校の先生は正直になりなさいと僕を殴ったがこういう時にも正直になるべきか先生に殴って欲しくなってしまった。
二人は何とか落ち着いて会計を済ませて出ていきながら男が、僕とマスターに軽く頭を下げた。