恋する指先
「行ってきます~」


 私と美織ちゃんが一緒に玄関を出る。


「気をつけてね」


 お母さんの声がキッチンから聞こえた。


「いつも一人で行ってるの?」


「え?」


 駅までの道のり、前に視線を向けたまま美織ちゃんが言う。


「小学校の頃はよく、一緒に行ってたじゃない、榛名君」


「あ・・・うん。中学の頃から一緒に行ってない、かな」


 そう・・・・・。

 榛くんとは中学校に入ってから、一緒に登校したことはない。

 私はなんだか避けられてる、と思う。

 いつもと変わらなかったのに、ある日、突然、榛くんは来なくなった。

 どうしてなのか、今だに理由は分からない。


「そっかぁ、中学校くらいになっちゃうと男の子と女の子ってあんまり一緒にいなくなるのかもね」


「・・・・・うん」


 返事をしながら、自然と俯いてしまう。


 そうなのかもしれない。

 
 そうなのかもしれないけど、それが寂しかった。

 毎朝、見ていた顔が見れないとか、声が聞けないとか、そんな事じゃなくて。


 やっぱり、どこか避けられてるのが悲しかった。


 だって、今だって、私の目の前を10メートルくらい先を歩いているのに。

 美織ちゃんにはペコって頭を下げたのに、私の事は見えないみたいに直ぐに前を向いて、歩いて行ってしまったんだもの。


 同じ高校に行ってるのに、一回も一緒に行った事も帰った事もない。


 目の前を歩いていても、嫌われてるのかもって思ったら声をかけるのが怖い。

 榛くんから私に声を掛けてくれることもない。


 今は幼なじみどころか、友達ですらない・・・・・。


「ちゃんと前を向きなさい」


 美織ちゃんが俯く私の背中をポンって押した。


「あ、ごめん」


「別に謝らなくてもいいよ、ちゃんと前を向いてなきゃぶつかっちゃうよ」


 笑いながら美織ちゃんは、気をつけてね、とバス停に向かって歩いて行った。


 ピンと伸びた背筋、颯爽と歩く美織ちゃんはまっすぐ前を向いて進む。


 行き交う人が振り返るくらいにカッコよく。






 

 
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