恋する指先
「美伊、遅れるわよ~」


「は~い」


 ベージュのチェックのスカートに、白いシャツ、同じチェック柄のネクタイ、黒のハイソックス。
 制服はどこもにているけれど、私の通う高校の制服も別段、変わったところもない普通の制服。
 セーラー服にも憧れたけど、近くにセーラー服の高校はなかった。
 かと言って、これと言ってこの制服に不満があるわけでもないけど。

 鏡の前で全身を一応、チェックして、リビングに向かった。


「おはよう」

「おはよう、早くしないと遅れるわよ~」


 お母さんではなく、姉の美織ちゃんがトーストをかじりながら私に視線を向ける。


「美織ちゃん、帰ってたの?」


「撮影、昨日で終わったしね。大学もあんまり休んでると卒業出来なくなっちゃうし」


 長い明るめの茶色のウェーブのかかった髪の毛が、ふわふわと揺れる。


「ごちそうさま」


 すっと席を立って、私の横を通り抜ける。

 私は152センチ。

 美織ちゃんは172センチ。

 同じ姉妹なのに、20センチの身長差はなんでなの?

 見上げる美織ちゃんは、だれに聞いても必ず「美人」って言われるくらいの美人。

 長い睫毛に大きな瞳がまさに、バービー人形みたい。

 今も雑誌の専属モデルとして活躍中。

 それでいて、国立大学の4年生。

 美人で頭も良いなんて・・・一つくらい私に分けてくれても良かったのに。


「ん?どうしたの?」


 視線を感じたのか、美織ちゃんがふいに振り向いて視線が合う。


「・・・私も背が高くなりたかった」


 今更、それを言ってどうなるものでもないのに、つい見上げる美織ちゃんを見ると言ってしまう。


「それはもう無理でしょ~、美伊は小さくて可愛いじゃない。背が高いってのも良いことばかりじゃないしね・・・」

 
 長い睫毛を少し伏せて美織ちゃんが言う。

 なんかちょっと悲しそう?


「早くしないと遅刻するよ!」


 瞳を向けた美織ちゃんはいつもの美織ちゃんだった。

 時計を見ると7時50分。


「うわっ、ホントに遅刻しちゃう!!」


 私も慌ててトーストをかじってカフェオレで流し込んだ。

 歯磨きをしながらボブの髪の毛を梳かす。

 栗色に近い髪の毛は、くせっ毛で美織ちゃんと同じでふわふわとゆるくウェーブしている。

 櫛を入れただけでそれなりに見えるところはいいところ。

 でも、雨の日に無駄に広がるのが嫌なところ。

 今日は晴れてて良かった。

 玄関を開けて見上げた空を見て、大きく息を吸い込んだ。




 



 
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