とけていく…
 楽しかったあの頃を、思い出さずにはいられなかった。

 何も考えなくても、弾いていたあの頃。つい二年前まで、この家がピアノのメロディに溢れ、笑顔の絶えなかったあの頃は、もう戻らない。

 由里が死んだあの日から、やはりピアノを封印するべきだった。寂しくても、虚しくても、やはり弾いてはいけなかった。

 もし神様がいるのなら、なぜあんないたずらをしたのだろう? なぜ真紀になんて出会ってしまったのだろう?

 彼は、真紀に由里の影を見ていた。

(由里はもういないのに…!)

 由里がいつも聞いてくれていたように、真紀が替わりに好きだと言って彼の"音"を聞いてくれた。それが嬉しくて勢いでバイトを引き受けたのは、間違っていた。二年前のあの日から、彼の中で何ひとつ、変わっていなかった。

 また同じようなことがあったら、繰り返してしまうのだろうか?

 そんなことを考えていると、気付けば外は暗くなっていた。街灯が灯り、いつの間にか雨は止んでいた。

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