とけていく…
 食事を作る気にもなれず、彼は余りご飯にお茶漬けの素をかけて、ポットのお湯を注いだ。それをかき込んでいると、インターフォンが鳴った。箸を置き、モニタで確認すると、紫がそわそわした様子で立っていたのだ。涼は、慌ててドアを開けた。

「どしたの?」

 突然の紫の訪問に、涼は少しだけ戸惑っていた。紫は彼の顔を見て安堵した表情を浮かべていたのだが、次第に頬を膨らませ、怒り出したのだ。

「どしたのって…! メールしても返事ないし、電話しても出ないから、何か心配しちゃって…」

 怒り出したと思ったら、今度はため息と共に、呆れた顔をしてうつむいた。

「悪ぃ、充電忘れてたかも…」

 彼の言い訳を聞いた紫は、「大丈夫ならいいよ」と、踵を返し帰ろうとした。

「待てよ、送ってくから」

 彼は急いでリビングに財布と携帯を取りに行くと、スニーカーのかかとを踏んだまま玄関先で待たせていた紫の横に並んだ。

「ありがと」

 呆れていた紫は、今度は嬉しそうに笑っている。そんな彼女を見た涼は、胸が割かれる思いだった。

< 114 / 213 >

この作品をシェア

pagetop