とけていく…
「で、さっそく帰国の理由… なのだけれど」

「はい。」


 彼女は、目を伏せた。良くないことが予想され、かれは眉根を寄せて彼女の言葉の続きを待った。

「あの人、病気なんです」

「病気… ですか。なんの?」

 彼が訊ねると、笑子はとても悲しそうな目を向けた。涼はドキッとした。笑子からどんな言葉が飛び出すのか、にわかに、鼓動が速くなるのを感ぜずにはいられなかった。

「…ガンですわ。それも、もう末期だそうです…」

 冷静を装ったような彼女のその言葉は、涼の胸に突き刺さるほどの衝撃をもたらした。さーっと血の気が引くのを、もろに感じたことはなかった。思わず、胸を抑えてしまう。咽が、異様に渇いた気がした。目の前にお茶の入ったコップがあると言うのに、それを手に取ることすらもできない自分が、そこにいたのだ。

 彼女は、これまでの経緯を話し始めた。

< 131 / 213 >

この作品をシェア

pagetop