とけていく…
「紫… 元気?」

 思わず口にしたものの、慌てて口を押さえる。

『…元気よ。何度も電話くれてたみたいだったから。ごめんね。風邪引いて寝込
んでたの』

「…大丈夫か?」

『大丈夫よ! もう、この通り。』

 その声は、とても明るかったのだが、涼は困惑していた。

(電話じゃ、分かんねぇよ…)

 思わずそう突っ込みたくなったが、それが余計に彼の胸を締めつけた。

『何か、用だった?』

 至って普通の振る舞いをつとめている紫に、涼は「何かって… 話がしたいんだけど…」と、言葉を濁した。

『なぁに?』

 紫の声は、身構えているせいか、少しだけ震えていた。涼は意を決したように切り出した。

「今から会えない?」

 すると、紫は即答できず、言葉を探していた。

『…今、この電話じゃだめかな?』

 受話器の向こうの紫は、ため息混じりにそう返した。そして、『会ったら、決意が揺らぎそう、なんだけど…』と、歯切れ悪く付け加えたのだ。

「決意…?」

 涼は、恐る恐る尋ねた。すると、今度は紫が決意するかの様に息を深く吐き、口を開いた。

< 150 / 213 >

この作品をシェア

pagetop