とけていく…
「ピアノ…、本格的に、また始めるのか」

 すると、涼はうなずいた。そして、「雄介」と目の前にいる男の名を呼ぶ。

「なんだ?」

雄介は真剣な眼差しを涼に向けた。

「俺は、誰かのために弾くんじゃない。自分のために弾くんだ」

雄介は黙ってうなずいた。

「俺は、自分の気持ちに正直になりたいんだ。もう、俺にはピアノしかない。自分を試したい。自信を持ちたいんだ」

「…頑張りゃいーじゃん!」

雄介は立ち上がり、白い歯を見せて笑った。そして彼の肩を軽く叩くと、またコートに戻って行ったのだ。

また、さっきのように練習に戻る雄介のその姿を涼はもうしばらく眺めていた。

(あいつにバスケが大事なように、俺も…)

なんとなくスッキリとした気持ちになった涼の顔には、笑顔が浮かんでいた。

少しバカだけど、憎めない親友、雄介。ヤツのためにも、証明して見せる!

涼は、静かに燃える闘志を心に秘め、体育館から立ち去った。



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